歯周病とは
歯周病とはと聞かれたらみなさん何とお答えでしょうか。自覚症状として、歯肉の腫れや歯磨き時の出血、歯の揺れ、口臭などを思い浮かべませんか。このような症状は連想できますが、歯肉の病気?という抽象的な答えになる方が多いと思います。歯周病とは歯肉炎、歯周炎、咬合性外傷(異常な咬合による歯周組織の崩壊)の総称です。つまり歯を支える歯周組織に疾患がある状態をいいます。一概に歯肉の病気とは言えないのです。歯の喪失の原因の5割はこの歯周病であるというデータが出ています。4割が虫歯、1割が外傷です。つまり歯周病を予防することにより、歯の喪失の予防をすることができます。
歯周病は生活習慣病の一つであることをご存じですか。喫煙や飲酒は歯周病のリスクファクターと呼ばれ、歯周病進行の原因とされています。また、歯周病は糖尿病や心筋梗塞などの全身疾患とも深くかかわっています。これをペリオドンタルメディスンといいます。歯周病は糖尿病や心筋梗塞の原因の一つであり、逆に糖尿病や心筋梗塞は歯周病の原因の一つなのです。つまり、歯周病⇔糖尿病や心筋梗塞などの全身疾患 という相関図ができ、歯周病を改善することにより、これらの疾患に罹患する確率を減少できると考えられています。
口腔は食事を摂取する、発声するという仕事を担っていると同時に、体の中で唯一外に出ている器官として、自分自身のメディカルチェックができる大切な場所なのです。
ではこの口腔内にはどれくらいの種類の細菌がいると思いますか。口腔内には通常500種類以上の細菌がいます。その中で歯周病を発症させる細菌は一部ですが歯ブラシだけでは取りづらいところにいる曲者が多いのが特徴です。歯周治療の第一原則はこの歯周病を発症させる細菌を除去することとされています。
以上のことより歯周病の発症、進行抑制には生活習慣の改善と日々のブラッシングやデンタルフロス、歯科医院でのメインテナンスが有用です。
生活習慣を改善し、正しいプラークコントロールや自分に合った歯ブラシ、殺菌効果の高いハミガキ粉を使い、日々実践すること。これが一番の治療であると考えられます。
口腔ケアと健康
口腔は消化器官の一部として身体全体とつながっているので、全身状態の影響を少なからず受けることになります。したがって、虫歯や歯周病が全身状態に影響され、逆に先進疾患を引き起こす誘因となることもあります。
社会情勢の複雑化や高齢化社会に伴い、全身疾患の背景も複雑化しています。虫歯や歯周病を治療しないまま放置し、長期間慢性炎症が口腔内に存在することによって、増殖したムシバ菌や歯周病菌、炎症性サイトカインが血液中に侵入することや、誤嚥によって、口腔から離れた心臓や肺などの遠隔臓器に達し、そこに付着・増殖し病気を発症させ悪影響を及ぼすと考えられています。新たな疾患を引き起こす可能性もあります。
わが国の死因は、戦前は結核・胃腸炎・肺炎などの感染症が中心を占めていましたが、近年では①悪性新生物(28.5%)、②心疾患(15.5%)、③肺炎(9.9%)、④脳血管疾患(9.9%)であり、四大死因となりました。これらの4大死因のうち、肺炎を除いた3大疾患は、40歳前後から死亡率が高くなり、いわゆる働き盛りに多い疾患であることから、「成人病」という名称でよばれるようになりました。
しかし、その後の研究などによって、3大疾患の原因は、運動、睡眠、喫煙、飲酒、ストレスなど、日常の生活習慣に深く根ざしており、成人ばかりでなく子供でも罹患する恐れがあることが明らかになりました。そのため平成8年に厚生労働省は「成人病」という加齢に伴った身体の変化が引き起こす疾患という概念から、「生活習慣病」という生活習慣を改善することにより、病気の発症や進行が予防できる疾患であるように名称を改めました。
生活習慣病には、上記であげた悪性新生物、心疾患、脳血管疾患(脳卒中)のほかに、糖尿病、肥満、高血圧症、高脂血症、歯周病などが含まれます。歯垢(プラーク)1mg中には一千万個以上の細菌が含まれており、そのうち約25%が生菌であると言われています。プラーク中の細菌が、これらの四大死因と少なからず関与していることが解明されてきています。
したがって、虫歯や歯周病を予防し、口腔ケアをコントロールすることは、単に歯や口の健康を守るのみならず、全身の健康を守ることにもつながり、人生80年以上の高齢化社会を豊かで快適に過ごすために極めて重要となると考えられています。
一般的に、人は健康そのものに対する興味や認識は高いといってよいでしょう。しかし、病気の実体を目でとらえるのは困難です。歯肉に炎症があると歯肉が発赤・腫脹し、出血することで、症状を目で見ることができます。その原因であるプラークは肉眼では確認しにくいのですが、プラーク染色剤を使用すればピンクや紫に染まり容易に目で見ることができます。歯肉に炎症がある場合は、プラークの付着と関連があることを患者自身に気づかせ、プラークをブラッシングや口腔ケアで除去することで、炎症が改善され、赤く腫れていた歯肉が良くなることを実体験させることは極めて重要です。
さらにプラークの形成が、食生活や生活習慣とも密接に関与していることを気づかせ、人の食習慣や生活習慣を改善することによって歯肉の炎症が改善することを自己学習させ、問題解決能力を育むことは、人生80年以上の高齢化社会における、生涯にわたる健やかなQOLおよびADLを営むことができる基礎形成に役立つと考えます。
歯周病の進行
健康な状態
歯周ポケットの深さは1~2mmほどしかありません。歯肉は淡い健康的なピンク色をしていて引き締まっており、歯と歯の間の歯肉はきれいな三角形になっています。
歯肉炎
歯肉に炎症が起きています。歯肉が腫れて少し赤みが出ており、歯磨きのときに出血することがあります。まだ自覚症状はほとんどなく、プラークコントロールをすることで健康な歯肉になります。
歯周炎(軽度)
歯肉の炎症が拡大し、細菌が歯周組織に侵入しています。歯を支えている歯槽骨や歯根膜を破壊しはじめますが、まだ痛みをともなわないので自覚しにくい段階です。
歯周炎(中度)
歯肉の炎症が悪化して、歯周ポケットが4~7mmくらいまで深くなります。歯槽骨は半分くらい溶けてしまい、歯が少しグラグラと揺れるようになります。硬いものが噛みにくく、痛みを感じます。
歯周炎(重度)
歯根まで感染が広がり、歯が大きく揺れます。歯周ポケットもかなり深くなり、食べ物を噛みにくい状態です。歯肉が下がって歯根が見えるようになり、膿が出て口臭も強くなります。
歯周病の治療方法
ブラッシング指導
毎日行うブラッシングの質を上げるために、実践的な指導を行います。歯ブラシの持ち方や動かし方などを学び、磨き残しが出ないようにしていきます。
スケーリング・ルートプレーニング
歯石を取るための治療です。スケーリングは歯の表面に付着した歯石やバイオフィルムを取り除く処置で、ルートプレーニングは歯周ポケット内部の歯石や汚染された組織を除去する処置です。
クリーニング
特殊な器具や薬剤などを使い、お口の中全体をきれいにする処置です。歯周病の原因にもなるバイオフィルムなどを磨き落とします。歯面が滑らかになるので、バイオフィルムなどが付着しにくくなります。
歯周外科治療
歯周病治療は、まず基本治療となるプラークコントロールやスケーリング・ルートプレーニングなどを行います。しかし、歯周ポケットが深く歯石に届かないようなケースでは、病巣がよく見えるように歯肉を切開し、目で確認しながら歯石を取り除く、または歯周組織を再生させるなどの目的で「歯周外科治療」を行うことがあります。歯周外科治療にはいくつかの治療方法があり、症状からより良い方法を選択します。
歯周外科治療の種類
組織付着療法
歯周ポケットの内部や歯根の表面についた細菌、汚れなどを徹底的に除去する治療です。これにより、歯周ポケットが浅くなって歯肉が歯根に付着し、細菌が増殖しないようにコントロールしやすくなります。
切除療法
感染している歯周組織を切除し、歯周ポケットを浅くする治療方法です。プラークコントロールしやすい状態になり、炎症を改善させることができます。切除療法には、歯肉切除術やフラップ手術などがあります。
歯周形成手術
歯周病によって破壊された歯肉や粘膜などの形態を修復し、プラークコントロールができる状態にする治療です。下がってしまった歯肉の再生や、硬い歯肉を移植するなどの治療が可能です。
歯周組織再生療法
歯周組織を再生させるための治療です。治療方法のひとつであるエムドゲインは、歯周病によって欠損した歯根膜や歯槽骨の再生などを実現します。また、接合上皮細胞の増殖を抑えて歯周組織を適切に形成していきます。
歯周病治療の流れ
1治療計画
歯周病がどれくらい進行しているか検査をします。プローブとよばれる器具で歯周ポケットの深さを計り、歯肉からの出血や歯の動揺なども診ます。診断結果をもとに治療計画を作成します。
2初期治療
磨き指導やクリーニングなど、歯垢を取り除くための処置を行います。さらに、患者さまの歯周病の進行度を考慮して、スケーラーやルートプレーニングなど歯石を取り除くための処置をします。
3再評価
一通りの治療が終わったら、歯周ポケットの深さを測定するなどして治療効果を評価します。改善があまり見られない場合は原因を考え、改めて治療計画を立てます。
4歯周外科治療(※必要な場合のみ)
歯周基本治療をしても深い歯周ポケットが残っている場合、歯周外科治療を検討する可能性があります。歯周ポケットを浅くしたあとに検査をし、治療効果をチェックします。
5メンテナンス
歯周病治療により炎症は引いていきますが、このあとも定期的にメンテナンスを受けていただくことが大切です。歯周病が再発していないか検査し、汚れがないか確認しながらブラッシング指導などを行います。