噛み合わせ治療に必要な
歯列矯正の概念
「首の皮一枚で助かる」「借金だらけで首が回らない」「やっとのことで首がつながった」「私の首を賭けて誓います」等々、昔から日本人は大事にかかわることについて「首」をたとえとして用いてきました。これは、昔の人が首こそ人間にとってもっとも大切な場所であると考えていたからに他なりません。
まず、首を支える頚椎のなかには脊柱管という筒状の器官があります。さらにそのなかにある脊髄には、無数の神経が通っていて、脳からの指令を全身に伝える役割があります。また、心臓から脳に大量の血液を送る椎骨動脈も通っています。その他にも、口から吸い込んだ空気を肺に送る気管や、食べたものを胃に送る食道、新陳代謝(古いものと新しいものの入れ替わり)や各種の神経の動きを活発にするホルモンを分泌する甲状腺、脊椎から枝分かれした神経が束状になった神経根もあります。
つまり、首は頭と胴体をつなぐ急所であるとともに、脳と全身の間で生命活動にかかわるさまざまな物質や情報のやり取りをする、身体の最重要地点なのです。
それほど重要でありながら首は非常に弱く、大変痛みやすい場所でもあります。人間の頭は平均して一〇kg以上と非常に重いものですが、これを七つの小さな骨だけで支えているのです。頚椎はゆるいカーブを描いてつながっており、重い頭を支えることでかかる負担をうまく分散していますが、それでも不十分です。そのため、噛み合わせのバランスが崩れることによって身体のバランスも崩れて無理な姿勢が続くと、頚椎、特に第二頚椎(上から二番目の骨)が変形してしまいます。その結果、変形した頚椎が脊髄や血管を圧迫して、さまざまな不快症状や病気が現れてくるのです。
犬を使った動物実験で片方の犬歯を抜歯すると、抜歯をした方の前足が曲がり、やがて身体全体のバランスが崩れて首も曲がってきます。ところが、抜歯をしたところにインプラントを入れると、またもとの姿勢に戻ります。人間でも同じことがいえるのです。
頚椎が歪むと頭痛や肩凝り、めまい、耳鳴り、吐き気などが起こり、これらの症状を放置すると、神経障害や血流障害を引き起こし、やがては手足のマヒやシビレ、脳梗塞や心臓病を招く恐れもあります。
それに、首には身体の他の部分と違って筋肉が十分についていません。首の前側には食道や気管などがあるので、筋肉は後ろ側についているだけなのです。しかも、その筋肉は二〇歳を過ぎたころから徐々に衰え始めます。頭の重さは年をとっても変わりませんから、首にかかる負担は増していく一方なのです。これも首が傷つきやすい理由の一つです。
それでは、どうして咬合異常(噛み合わせのバランスが崩れた状態)によって姿勢が悪くなり、肩凝りや腰痛などが生じるのでしょう。
下顎の位置は、左右の顎関節と上下の歯の接触、つまり噛み合わせによって規定されています。私たちが歯を噛み合わせたときには、上下のすべての菌が最大に接触し、その位置で噛み合わせが安定するような平面(咬合平面)が存在し、下顎の位置が必然的に規定されているのです。
一方、顎関節には関節の間に関節円板と呼ばれる軟骨があります。この関節円板にはクッションの役割があり、柔軟に動かすことができ、適度なアソビがあります。したがって、噛み合わせに異常があっても、顎関節や咀嚼筋群がそのストレスを吸収してくれるのです。しかし、過度な噛み合わせの異常は、顎関節のストレスを吸収してくれる関節円板を変形させ、円板の位置がズレたり、ときには破れたりすることもあります。そして、長期間そのような状態を放置すると、骨が変形し、頚椎の正中環軸関節に異常が出てきます。つまり、噛み合わせのバランスの崩れは、頚椎を介して身体の中心軸に異変を発生させ、そのことによって姿勢が悪くなり、脊柱彎曲症の潜在的な原因となるのです。
歯科医学において正常咬合の定義や咬合理論にはいまだに定説がなく、その多くは経験則によっています。もちろん治療法も完全に確立されてはいませんから、肩凝りや腰痛などの全身症状が、噛み合わせに起因するかどうかを推測することは困難ですが、歯科医としての数多くの臨床例によって、これらの症状を引き起こす原因の一つに不正咬合が関与していることは、間違いのない事実なのです。
少し専門的な話になりますが、アメリカでは一九七〇年代に噛み合わせを科学的に解明して、不正咬合が原因で起こる咬合病を治療することを目的とする学会が盛んに行われました。そのなかにナソロジー学会というものがあり、ナソロジーを知らないものはデンティストにあらずといわれたくらい大きな組織でした。
ナソロジーは、上下の歯が最大に接触して噛んだ位置を「中心位」とし、それは顎を一番後ろに引いたところ、最後方位であるとしていました。しかし、その位置で噛み合わせをつくるために、何でもない健康な歯を全部削ってクラウンで被せてしまいます。そして噛む位置は顎を一番後ろに引いたところですから、こんな治療をされたらたまりません。当然、顎は前に行きたくなります。噛み合わせが悪いから治療したのにもかかわらず、治療してからの方が体調も悪く、苦痛のために自殺する人もいたそうです。そうした失敗を繰り返しながら、中心位というものは時代とともに顎の前方を採るようになってきました。現在のアメリカでは、ナソロジー学会にはわずか二〇〇〇人くらいの会員しかいません。会員は自分たちの失敗した患者を分析しているだけで、なんの進歩もありません。
それでは日本の噛み合わせを専門にしている歯医者はどうでしょうか。残念ながらいまだにナソロジーを最高の学問として、実験的な治療を繰り返しています。健康な歯を削って噛み合わせを調整したり、マウスピースのような調整器具を使い一次的に対症療法をしているに過ぎません。
噛み合わせは、綺麗な歯並び(歯列弓)があって始めて成り立つものです。綺麗な歯並びは、歯列矯正治療の概念とテクニックがなければ成り立ちません。矯正治療ができないのに噛み合わせの治療が得意ですと、標榜しているのはおかしいのです。
数年前に日本で発足した「全身咬合学会」というものがあります。その学会に入ると「噛み合わせ認定医」というものがもらえるそうです。噛み合わせが大切であるという啓蒙にはなると思いますが、アメリカのナソロジー学会の二の舞いにならないようにしてもらいたいものです。日本人には日本人の噛み合わせがあるのですから。
噛み合わせの全身への影響
顎関節の異常によって起こる全身的な症状として一般的には、肩・首の凝りや痛み、片頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、難聴、眼精疲労、視力障害、腰痛、不眠症、集中力不足、生理不順、膠原病等々、さまざまな症状があります。
顎関節の内側や後方はとても脆弱なところですが、大切な神経や血管が通っています。その場所の頭蓋骨も非常に薄くて、厚みは数しかありません。ボクシングなどで顎に打撃を何回も受けると、顎関節内側の頭蓋骨に穴が開き、髄液が漏れて頭痛がしたり、吐き気やめまい、平衡感覚を失ったりする、いわゆるパンチドランカーの症状も、顎関節の異常から起こってきます。
この髄液が漏れる低脳髄液症候群とは、髄膜に穴が開き、そこから髄液が漏れ出すことによって脳の位置が低くなるため、神経が圧迫・牽引されて現れる症状ですが、現在ではブラッドパッチ療法によって治療が可能となっています。
噛み合わせが悪いために下顎が後ろにズレてくると、神経や血管が圧迫されてきます。その神経経路のなかには、目や耳や鼻などの感覚受容器や脳につながる神経が通っていますので、視力が低下したり難聴になったりする症状や、集中力や記憶力が低下するといった脳や精神・神経症状が現れてくるのです。
また、多くの専門家が指摘するように、不正咬合のほとんどの人に姿勢のゆがみがあります。本人はまっすぐ立っているつもりでも、右か左に体重が傾いていてバランスを取るために身体が左右に曲がっています。脊椎がS字状に曲がる脊椎側湾症になっていることもあります。
歯列不正によって下顎や重い頭蓋骨がズレてくると、それを支えるために脊椎を湾曲させてバランスをとろうとします。頚椎がズレ、そのひずみが胸椎、腰椎、骨盤まで達すると、腰痛はもとより生理痛・生理不順、EDなどの生殖機能までに影響してきます。
また、脊椎のなかには大脳と末梢神経を結ぶ神経の東、脊髄がおさめられています。そのため脊椎がゆがんでくると、ここから出る神経系統にも障害が現れてきます。
これらが、噛み合わせが全身に影響するメカニズムです。
不定愁訴とは?
病院に行っても原因がわからない症状を不定愁訴といいます。歯列不正が原因で起こる症状の多くはこの不定愁訴に該当します。
しかし、このような症状は歯列不正のある全ての人に現れるわけではありません。同じ症状でも人により感じる度合いが違いますし、その表現の仕方も違います。噛み合わせが悪くても何の症状もなく、あまり気にしない人もいれば、わずかな異常にも敏感に反応して、ありとあらゆる不定愁訴を抱え込んでしまう人もいます。噛み合わせからくる全身症状は、身体表現性障害という心身症と同じような要素を持っています。
ところで、日本全国には百歳以上の方が約一万人いらっしゃいます。それらの方々を総称して「百寿歳」といいます。
百寿歳の内訳は、女性が約八千人以上、男性が千数百人になっています。厚生労働省はさらに追跡調査をしていて、どんな性格の人が長生きするのかを調査しています。女性はあまりくよくよしない大らかな方が長生きをするそうです。それに対して男性ではなにか気になることがあるとすぐに病院に行くようなタイプが長生きするそうで、逆に男らしく豪快な方は長生きできないそうです。
治療をしていて、いつも不思議に思うことがあります。それは、おおらかな女性には神経質な男性がついているということです。そして、この逆の組み合わせもあります。必ずしもお互いの欠点を補うようにと考えてパートナーを選んでいるわけではないのでしょうが、そのようなカップルが多いのです。
身体の異常に対して敏感な人は、その防御反応として不定愁訴がすぐに出てきます。そうすることによって症状を小出しにして自覚していく方が、結果的には身体にいいのです。豪快な男性のようになかなか症状が出ない人は、後で大きな病気になり大変なことになります。全ての病気は早期発見・早期治療に尽きます。歯や噛み合わせについても同様で、歯をなくしたときは正しい噛み合わせをインプラントなどで補うことが、さまざまな咬合由来症への予防となるのです。
当院の歯列矯正治療の特長
「透明で目立たない」マウスピース型矯正装置(インビザライン)による治療
インビザラインは、不正咬合を治療するため、患者ひとりひとりのために、矯正歯科医の治療計画に基づいてカスタムオーダーで製造される矯正装置です。これまでに全世界で60,000名を超える矯正歯科医が、インビザラインで患者の治療を行うための認定を受けており、1,200,000名を超える患者がインビザラインの治療を受けています(2010年3月末現在)。インビザラインでの臨床報告は多数の論文があり、その半数以上が審査のある学術専門誌(AJO,JCOなど)で発表されています。
インビザラインでは、クリンチェックと呼ばれる独自の3D(3次元)シュミレーションソフトを通じ、コンピューター画面上にて、治療完了に至るまでの総合的な治療計画の立案・検討を行っていきます。治療計画の策定にあたっては、インターネットを通じた双方向なやり取りを経て、患者の了承を得てから担当医が最終決定し、認証します。
矯正専門医による認証後、治療計画を忠実に具現化すべく、独自のCAD/CAM(光造形)技術を通じ、「アライナー」と呼ばれる、透明かつ取り外し式の装置が製造されます。形状の異なる複数のアライナーを段階的に連続して使用することで、歯の移動を行います。治療期間(即ち、治療に必要なアライナーの総数)を問わず、治療完了までに必要なアライナー群のすべてを、治療開始前に一括して製作します。
患者は、治療目標が達成されるまで、通常は2週間毎に新しいアライナーに交換しながら、一日20時間以上装着し、歯を徐々に移動させていきます。
インビザラインのメリット
- 透明感があり、装着していても目立ちません。
- 食事やハミガキ時に取り外し可能なため、衛生的で、ムシバや歯周病になりにくい。
- 矯正装置の装着による不快感が軽減され、より審美的である。
- クリンチェックが表示する3Dアニメーション動画を通じ、患者自身も計画された歯の移動が事前に見ることができる。
- インビザラインの使用により来院回数が短縮でき、治療が効率的になる。
- 治療しながらホワイトニングすることができる。
「より精密な治療が可能に」3D口腔内スキャナーを用いたデジタル治療
アルジネートやシリコンといった印象材を使った型取りとは異なり、小さなヘッドを歯列に当ててスキャニングし、立体的なデジタルデータとして記録できる装置です。
3D口腔内スキャナーのメリットのひとつが、型取りの正確さです。これまでの型取りは粘土状の印象材で行われていましたが、印象材そのものが変形するおそれがありました。3D口腔内スキャナーは歯列の形をそのままデータにでき、変形する心配もありません。さらに、噛む面のように複雑な形態をしているところもAI機能による自動認識により正確にデータ化でき、精密なアライナーを作ることができます。また、治療シミュレーションにより矯正治療後の歯並びを事前に確認することも可能です。
印象材による歯型取りは歯に当てたあとに数分お待ちいただきますが、人によっては嘔吐反射が出るなどして苦痛を感じるものでした。3D口腔内スキャナーは歯列に装置を当てるだけなので嘔吐反射の心配がなく、型取りも短い時間で終えられます。
「難しい症例も対応」マウスピース型矯正装置(インビザライン)と
ワイヤー装置(マニューバー)の併用
透明なマウスピース型装置を使ったインビザラインは優れた治療方法ではありますが、難症例には対応できないケースもあります。
そこで、当院で採用しているのが、マウスピース型矯正装置(インビザライン)とワイヤー装置(マニューバー)を併用した治療方法です。インビザラインだけではうまく動かない症例で、「次世代ブラケット」として注目されているマニューバーも補助的にご使用いただきます。マニューバーはノン・ライゲーション構造になっており、歯に貼り付けるブラケットの突出が少ないという特長があります。そのため違和感が小さく、発音などの支障も軽減されます。また、ブラケットそのものが白い素材なので、セットしたときに口元が目立ちません。
インビザラインとマニューバーを併用した症例はこちら
マウスピース型矯正装置(インビザライン)について
マウスピース型矯正装置(インビザライン)の特長
インビザラインは不正咬合を治療するための装置で、カスタムオーダーによってマウスピース型装置(アライナー)を作製します。インビザラインによる治療を受けた方の人数は、全世界で1,500万人以上(2023年3月時点)にのぼります。臨床報告も多くの論文があり、その半数以上が学術専門誌で発表されるなど、信頼の高い治療方法といえます。
インビザラインは、まず3D口腔内スキャナーで患者さまの歯型のデータを精密に取り、クリンチェックというソフトによって治療の様子をシミュレーションします。モニター上で立体的なイメージとして表示され、治療計画の立案にいかします。治療計画は患者さまにも詳しくご説明し、同意を得てから治療をスタートします。
次に、患者さまの歯型をもとにアライナーを作ります。段階ごとに型が異なるアライナーを作製し、これを取り替えながら使用していただくことで歯を移動させることができます。およそ2週間ごとにアライナーを交換し、1日に20時間以上装着していただきます。アライナーは一括してすべての枚数をお渡しするので、通院の手間が省けます。
また、装置は透明なので目立たず、装着しても口元が目立ちません。取り外しも可能で、お食事や歯磨きをいつもどおりできてお口の中を清潔に保てます。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)のメリット
- 装置が透明なので装着しても目立たない
- 取り外しができて歯磨きしやすいので、虫歯や歯周病にかかりにくい
- 装着時の不快感が軽減される
- 来院いただく回数が少なくなり、効率的に治療できる
- 治療前にシミュレーションの様子を確認できる
- 歯列矯正をしながらホワイトニングを受けられる
- 金属アレルギーの心配がない
マウスピース型矯正装置(インビザライン)のデメリット
- 装着時間を守る必要がある
- インビザラインだけでは対応できない症例がある
マウスピース型矯正装置(インビザライン)の治療の流れ
1ご予約
歯列矯正をご希望の方、歯列矯正を受けるべきか迷っている方はまずご予約ください。カウンセリングを受けてみたいという方のご予約もお待ちしています。
2来院・カウンセリング
ご来院いただきましたら受付へお越しいただき、待合室でお待ちください。
カウンセリングでは、現在の歯並びのお悩みなどをお伺いします。また、歯列矯正の相談を受けようと思ったきっかけなどについてもお聞きし、お口の中を拝見して現在の歯並びがどのような状態か確認します。概算ではありますが、考えられる治療方法や治療期間などについてお伝えします。治療に対するご希望やご質問などがございましたら、遠慮なくお話しください。
3検査・治療計画
お口の中の様子をさらに詳しく調べるために精密検査をします。3D口腔内スキャナーによる歯型の採取、レントゲン撮影、お顔やお口の中の撮影などを行います。検査内容が治療計画にそのまま反映されるので、精密に行います。 また、虫歯や歯周病の有無についても検査をします。場合によっては、歯列矯正の前に虫歯や歯周病の治療を行うことがあります。
4矯正治療開始
当院で作成した治療計画について、詳細をお伝えします。このなかには治療内容のほかに、治療期間や費用も含まれています。
歯型のデータをもとにシミュレーションを行い、患者さまにもモニター上でご確認いただきます。作製したアライナーを一括してお渡しし、一日の装着時間やアライナーを取り替えるタイミングなどをお伝えします。数ヵ月ごとに経過観察に来ていただきます。
5保定
理想的な歯並びになったあとは、動いた歯が元の位置に戻らないようにする「後戻り」を起こさないよう、保定という処置をします。保定用の装置を終日つけていただき、歯並びが変化するのを予防します。ある程度歯並びが安定してきたら、1日の装着時間も短くなっていきます。保定装置を使わなくて済むほどに安定してきたら、歯列矯正は終了となります。治療後もメインテナンスに来ていただくことで、きれいになった歯の健康を維持できます。